海洋の Q and A
Q.1 電子海図とはどんなものですか
電子海図(ENC:Electronic Navigational Chart)とは、紙の海図に対して電子媒体を用いた海図のことであり、「海のカーナビ」とも呼ばれ、海上保安庁から刊行されています。
電子海図の内容は、国際水路機関(IHO:International Hydrographic Organization)が規定したフォーマット(「S-57」と呼ばれている)に基づいて作製され、コンパクトディスク(CD-ROM)に収録されたものです。
正規の航海に利用するためには、航海用電子海図表示装置(ECDIS:Electronic Chart Display and Information System)が必要です。
この電子海図は、高い安全性と優れた利便性を有しており、その特徴は以下のとおりです。
《高い安全性》
(1) 電子航法装置による自船の位置を自動的に表示することができる。
(2) 進路上に危険な海域があった場合は、警報を発する機能がある。
(3) 計画した航路からはずれた場合は、警報を発する機能がある。
(4) レーダーや海上衝突予防装置からの情報を海図の重ね合わせて表示することができる。
《優れた利便性》
(1) 航海計画の立案、自船の航跡を記録することが簡単にできる。Q.2 海図に採用されている基準(水深、灯台・島の高さ、海岸線)について知りたい。
(1)水深
水深の基準は、その場所のほぼ最大の干潮時の水面である最低水面を採用しています。
(2)灯台・島の高さ
それらの高さは、その場所の平均水面(潮の満ち引きがないと仮定した時の海面)からの高さで表示します。
なお、平均水面は、基本的にその場所の長期間にわたる潮位観測の結果から導き出されます。
(3)海岸線
海岸線は、その場所における最大の満潮時の水面である最高水面を基準として、このときに海面と陸地が接する場所を指します。
国土地理院の地形図で示されている海岸線も、最高水面を基準にして示されております。
Q.3 海の深さの基準は、どのようにして決めるのですか。
海の深さ=水深は、最低水面からの高さで表します。
この最低水面は、海面がおおむねそれよりも低下しない面を指します。
この面を決めるためには、潮汐観測のデータをもとに、潮汐を起こす月や太陽などの複雑な動きをそれぞれの規則正しい潮汐に分け(これを調和分解といいます)、その中から潮汐を引き起こす4つの大きな要素(これを主要4分潮と呼んでいます)を求めます。その上で、平均水面からこの主要4分潮の半分だけ下がった面を最低水面としております。
(参考)潮汐調和分解の主要4分潮は、次の要素をいいます。
・ Hm:主太陰半日周潮
・ Hs:主太陽半日周潮
・ H‘:日月合成日周潮
・ Ho :主太陰日周潮
Q.4 潮位の0位と地図の等高線の0位は、同じですか。
潮位の0位と等高線の0位の高さは違います。
潮位の基準は、水深の基準面である「最低水面」です。
一方、等高線の基準は「平均水面」です。
なお、これは海図における決まりで、国土地理院の地図(陸図)における等高線は、「東京湾平均海面(平均水面とも言います)」が基準となっております。
詳しくは、海上保安庁海洋情報部のホームページ内(海のミニ知識)に掲載されておりますので参照ください。
Q.5 日本測地系から世界測地系への経緯度変換は、どのようにすればよいですか。
海域については、海上保安庁の変換プログラムを、陸域については、国土地理院の変換プログラムでそれぞれ変換してください。
海域:海上保安庁海洋情報部のホームページ内(経緯度変換プログラムの使用についての注意事項)
陸域:国土地理院測地部のホームページ内(緯度・経度を世界測地系に変換するためのソフトウエアの概要)
Q.6 世界測地系とは何ですか
まず、測地系とは、簡単にいいますと、海上や陸上の位置を示す経緯度を表すための座標系で、地表にかぶせる経緯度の編み目のことです。
従来は、各国がそれぞれ個別に決めており、日本では、明治初期に旧海軍水路部が東京麻布で行った天文観測等に基づき、日本経緯度原点が定められました。その後、三角測量によって国内に三角網が整備され、これに基づいた経緯度を、日本測地系(Tokyo Datum)と呼んでいます。これまでは、この日本測地系が海図、陸図をはじめ国内のあらゆる位置情報の基準となってきました。 しかし、この日本測地系は、明治時代の科学的知識や技術上の制約を受けていたことから、準拠楕円体として採用したベッセル楕円体は19世紀に決定されたものであり、地球の大きさ、形とも真の姿から大きくずれていること、また、日本測地系の経緯度原点の経緯度数値が世界測地系と比較すると10秒以上も異なっていることが分かりました。
一方、近年、GPSをはじめとする人工衛星を用いた測位技術が急速な発展を遂げ、これらによる観測結果から定められた座標系が用いられるようになり、これを世界測地系(World Geodetic System:WGS)と呼んでいます。
Q.7 デファレンシャルGPSとはどんなものですか。
GPSは、米国が運用している全世界測位システム(Global Positioning System:GPS)であり、24個以上の周回航法衛星により運用され、全世界で24時間、高い精度の測位が可能な測位システムです。
このシステムで、さらに測位精度を向上させる方法として開発された相対測位法の一つがDGPS(Differential GPS)と呼ばれている方法です。
GPSの単独測位による誤差要因は、衛星によるもの、制御部によるもの、利用者によるもの及びSA(選択利用性)によるものがあります。受信機そのものの誤差要因は別にして、これらの誤差要因は同一時刻に同一地域にある複数の受信機に同じ影響を与えます。従って、DGPS方式では、正確に位置が分かっている場所(基準局)で受信し、GPSで得られた位置と真の位置からその誤差を計算し、この誤差を修正誤差として未知の位置にある受信機(例えば船上の)に与えることにより、その受信機の誤差は大幅に減少して精度よく測位することができます。
この方式で補正情報を一般船舶等に提供している例として、海上保安庁が運用しているDGPSセンターがあります。海上保安庁では、中波無線標識(ラジオビーコン)の電波を使って、米国の運用するGPSの精度が1m以下となるような補正値のほか、GPS衛星の故障、システムの運用状況等の情報(インテグリティ情報)を直接ユーザー受信機に提供しています。
Q.8 海洋短波レーダーシステムとは、どんなものですか
陸上に設置されたレーダー局から海に向かって短波帯の電波を発射し、海面で反射して返ってきた散乱信号を周波数解析することにより、表層の海流や波浪等のデータを広範囲にかつ連続的に観測するシステムです。
1つのレーダー局では、放射線状の速度成分しか計測できないことから、通常は複数のレーダーを用いて、その重なり合う海域(向き合うレーダー局の直線方向の海域は除く)におけるメッシュ内の海流値を算出します。
また、電波の到達距離および距離分解能は、使用する電波の周波数によって違ってきます。
現在、このシステムは、海上保安庁、総務省通信総合研究所をはじめ民間でも広く実用化されています。
Q.9 アルゴスシステムとは、どんなものですか。
アメリカ航空宇宙局(NASA)、アメリカ海洋大気局(NOAA)およびフランス国立宇宙研究所(CNES)の間で協定、運用されるデータ収集システムで、地表面および空間からの位置および各種観測値のデータ信号を、同時に2個運用される人工衛星で受信し、データ処理センターを経由してユーザーに提供される。
我が国では、海上保安庁などでこのシステムを利用した漂流ブイの追跡による、海流調査を行っている。
Q.10 黒潮はどのように流れているのですか、またその把握はどのように行っているのですか。
黒潮は、日本海流とも呼ばれ、北大西洋におけるガレフ・ストリームとともに世 界二大海流といわれ、その流路はフィリピン東方の源泉域から台湾と石垣島との間を通り東シナ海に流入し、大陸棚斜面に沿って北上しトカラ海峡から九州南東方に抜け、四国・遠州灘沖から房総沖に達す。
黒潮の流速は、1~5ノットで、流れの幅は2ノット以上の強流帯が約30海里、1ノット以上の幅は約50~60海里です。
また、流れの存在する層は厚く、海底付近に達することもあります。流れの強さを表す流量は、現状では直接計測することができませんが、地衡流計算によれば毎秒6,000~8,000万トン程度です。
流路の変動は、東シナ海では小さいですが、日本南岸では大きく、流路の変動パターンとしてN,A,B、C,D型の五つに分類されています。このうち、A型は、紀州灘沖、遠州灘沖で大冷水塊を伴って大蛇行するパターンで、一度形成されるとその蛇行の形状を変えつつ長期間(2~10年程度)持続する傾向にあります。
こうした黒潮の動向を把握するため、海上保安庁をはじめ国内の関係機関からの海洋観測データを使用するほか、「NOAA衛星画像」からの水温データを参考にしています。
Q.11 異常潮位の原因は、何ですか。
潮位の変化には、通常の天体運動によって起こる潮の満ち引きのほか、時々、異常な昇降が現れることがあります。
直接的な原因のはっきりしている“津波”と“高潮”を除いて、発生原因のはっきりしない現象を「異常潮位」と呼んでいます。
その原因については、地盤の変動、黒潮による影響さらには地球温暖化などの要因が取りざたされておりますが、現在のところ不明というのが実情のようです。
Q.12 高潮とはどういうものですか、またどうして起きるのですか。
海面の高さは、潮の満ち引きによって変わりますが、気圧の変化によっても変わります。中心気圧と周囲の気圧との差が1ヘクトパスカルで、海面の高さは約1cm変化します。高気圧が海上を通過するときは、海面が押し下げられて低くなり、逆に低気圧の時は海面が吸い上げられて高くなります。
また、内湾域や地形の奥まった場所では、一方向からの強風の吹きつけによって海水が吹き寄せられ、海面が高くなることがあります。このため、台風が近くを通過したときは、気圧の急激な低下や強風の吹き付けによって、潮汐の予報値からはずれ、海面が高くなることがあります。このような現象を一般的に“高潮(たかしお)”と呼んでいます。
高潮は、津波のように急激に起こるものではなく、低気圧の接近とともに徐々に潮位が上昇し、通過後は次第に低下し通常は数日で収まります。
Q.13 海の中にある活断層は、どのように調べるのですか。
海域での活断層を調べるには、「表層音波調査」「深層音波調査」さらには「堆積物調査」を行うことにより、活断層の存在をはじめ活動の年代、活動の履歴など活断層の全体を明らかにすることができ、今後の地震予知に重要な情報を提供することができます。
陸上の活断層と違い、海底では簡単に掘り返して海底下の構造を見ることができません。そこで、音波を使って海底下の構造を調べる方法が、「表層音波調査」や「深層音波調査」です。
音波には、波長の短い波は早く減衰しますが解像度が高く、波長の長い波は解像度が低くなるものの減衰しにくいという性質があります。この性質を利用して、波長の短い音波で海底下数百mまでを詳しく調査するのを「表層音波調査」、波長の長い音波で海底下数kmまでの範囲を調査するのを「深層音波調査」と呼んでいます。また、「堆積物調査」は、見つかった断層をボーリング等によりサンプルを採取し、層序や年代の対比から断層の活動年代や活動履歴を明らかにするものです。
なお、詳しいことは、調査を行っている海上保安庁海洋情報部のホームページに掲載されておりますのでご参照ください。
問い合わせ:海洋調査技術学会事務局
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